【臨済録】やさしい現代語訳・解説 勘弁18

2023/09/09
 

 

こんにちは!

今回は、虚無僧のルーツは普化だったんだ!

 

①読み下し文

普化(ふけ)、一日、街市の中に於いて、人に就いて直裰(じきとつ)を乞う。人皆な之を与う。普化倶(とも)に要せず。師、院主をして棺一具を買わしむ。

普化帰り来たる。師云く、我れ汝が与(ため)に箇(こ)の直裰を做(つく)り得了(おわ)れりと。普化便ち自ら担(にな)い去って、街市を繞(めぐ)って叫んで云く、臨済、我が与に直裰を做り了れり。我れ東門に往いて遷化(せんげ)し去らんと。

市人競い随って之を看る。普化云く、我れ今日未(こんにちいま)だし、来日、南門に往いて遷化し去らんと。是の如くすること三日、人皆な信ぜず。

第四日に至って、人の随い看るもの無し。独り城外に出て、自ら棺内に入って、路行の人に倩(たの)んで之に釘うたしむ。

即時に伝布す。市人競い往いて棺を開くに、乃ち全身脱去(だっこ)するを見る。祇(た)だ空中に鈴の響の隠隠(いんいん)として去るを聞くのみ。

 

②私訳

普化がある日、街中で人々に法衣を施してくれと乞うた。人々はこれを施したが、普化はどれも受け取らなかった。

臨済は寺の執事に命じて、棺桶一式を買い整えた。普化が帰ってきたので、臨済は言った。

「ワシがお前のために、法衣を作ってやったぞ」

普化は自分でこれを担いで、街中を歩き回って叫んだ。

「臨済がワシのために、法衣を作ってくれた! これから東門に行って自ら遷化するぞ!」

人々は競ってこれを観に出かけた。

普化は言った。「今日はやめだ。明日南門で、遷化するぞ」

このように人々を振り回すこと三日、みな普化を信じなくなった。

四日目になると、付き従う者もなかった。

普化は一人城外に出て、棺桶の中に入り、通りすがりの者に頼んで、外から釘を打たせた。

すぐに噂は広まった。

人々が競って駆けつけ、棺桶を開いてみると、全身から(普化の本体は)抜け出ていた。

空中に鈴の音が微かに響くのが聞こえ、やがて消えていった。

 

現場検証及び解説

 

普化が遷化するときの話です。遷化というのは、遷移化滅(せんいけめつ)の略語で、高僧の死亡を婉曲的に、敬っていう言葉です。敬語ですので、自分の死にあたって「遷化するぞ!」と宣言するのはおかしなことです。それを普化はやっています。

法衣を施せというのは、実は棺桶のことだったようです。その意図を見事に読んだのは臨済でした。普化は街中に自分の死をふれまわります。そして、そう言っておきながらその期待を裏切り、ひっそりと死んでしまいます。しかし結局、衆目を集めることになりました。

本当にひっそりと死にたいのなら、山奥にでも行けばいいものを、目立ちたいのかそうでないのか、よくわからない普化の行動です。このへんのメンタリティは微妙なものがあります。

棺桶を開ける場面は、実際にどのようなものなのか、よくわかりません。「全身脱去」ですから、岩波文庫の入矢先生の訳の如く「もぬけのから」とすべきなのでしょう。そのようなこともあるのかもしれません。それは否定しません。ですが、あえて知的に受け入れやすい訳にしてみました。「全身から脱去していた」つまり、普化の本体(私たちを生かしている本来の面目)が肉体から去っていった、というふうな解釈です。

しかし、このような解釈だと、知的に理解しやすいものにはなりますが、人々は驚かなかったことになります。テキストに記述はありませんが、ここは「もぬけのから」に人々がびっくりしている様子が、読み取れるように思います。やはり、入矢先生の訳で正しいのかもしれません。

続く鈴の音にも、知的な理解を阻(はば)む不思議さがあります。このようなことは、現場にいないと、にわかには信じられません。否定もせず肯定もせず、はてなの付箋を付けておくことにします。

 

ネットで調べた情報ですが、日本にも、普化を教祖とする普化宗という禅の宗派があるそうです。江戸時代には盛んだったとのこと。時代劇に時々登場する虚無僧というキャラクターがあります。編み笠を被り、尺八を吹いている坊さんです。あれが普化宗なのだそうです。知りませんでした。

普化の存在は際立って感じられます。私見ですが、臨済より高い境地として「臨済録」の中に置かれているようにさえ思います。臨済は住職として社会的地位を確立した人です。一方、普化は臨済の布教活動を援助したようですが(そこは描かれていない)、自由人です。そこに魅力があるのかもしれません。

 

今回はこの辺で。近々にお会いしましょう。

 

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