【臨済録】やさしい現代語訳・解説 示衆7

2023/09/08
 

 

こんにちは!

今回は、「無事の人」とはなんじゃいな?

 

①読み下し文

師、衆に示して云く、道流、切に真正の見解を求取(ぐしゅ)して、天下に向って横行して、這(こ)の一般の精魅(せいみ)に惑乱(わくらん)せらるるを免れんことを要(ほっ)す。

無事是れ貴人、但(た)造作(ぞうさ)すること莫(なか)れ、祇(た)だ是れ平常なれ。你、外に向って傍家(ぼうけ)に求過(ぐか)して脚手(きゃくしゅ)を覓(もと)めんと擬(ほっ)す。錯(あやま)り了(おわ)れり。

祇だ仏を求めんと擬するも、仏は是れ名句なり。你還(なんじはた)馳求(ちぐ)する底を識(し)るや。三世十方の仏祖出で来たるも、也(ま)た祇だ法を求めんが為なり。如今(いま)参学の道流も也た祇だ法を求めんが為なり。

法を得て始めて了る。未だ得ざれば、依前として五道に輪廻す。云何(いか)なるか是れ法。法とは是れ心法。心法は形無くして、十方に通貫し、目前に現用す。

人は信不及(しんふぎゅう)にして、便乃(すなわ)ち名を認め句を認め、文字の中に向って仏法を意度(いたく)せんと求む。天地懸(はる)かに殊(こと)なる。

 

②私訳

臨済禅師は言った。

諸君、ぜひとも正しい見方をしてもらいたい。そして、天下を堂々とのし歩き、世間の野狐坊主に惑わせれないことだ。

平穏無事こそ高貴の人だ。意図して何かをなそうとするな。ただいつも通りであれ。諸君は外に向かい、脇道にそれ、助けを求める。それは間違いだ。

諸君が求めている仏とやらは、耳ざわりのいい言葉にすぎない。

諸君は求道心とは何か知っているか。

三世十方の仏祖が生まれたのは、法を求めるためだ。参学の諸君もまた、法を求めるために生まれてきた。法を得たとき、初めて勤めを終えるのだ。未だ得ないなら、そのまま五道を流転し続ける。

法とは何か。法とは心のことだ。心には形がなく、あらゆる方向に通じて、目の前にはたらきを現す。

人は自分を信じ切れないため、言葉に寄りかかり、文字のなかに仏法の意味を見出そうとするのだ。

文字と本物とは、天と地とほども異なるのだ。

 

現場検証及び解説

 

臨済先生の言葉には不思議な魅力があり、説得力があるように感じます。用語の説明はもちろん必要ですが、演説の息吹を伝えられたらいいな、と思います。一連の法話は、法の解説というよりも、修行者への励ましの意図が強くはたらいているようにも思います。

言わんとされているのは、「偽グルに気をつけろ」「文字に頼るな」「自分を信じろ」ということでしょうか。修行法についても、チラッと語られています。「無事であれ」「平常であれ」「意図して何かをするな」「外に向かって求めるな」です。

無事というのは、現代のこの用語の使い方とちょっと違うようです。「災害があったけど、君は無事でよかった」というような無事とは違います。また、「そんなの、かんけーねぇ」と世事一切に関わらないという態度でもありません。では、どのような無事なのでしょうか。

これは、世事に関わりながらも、即今をしっかり守っているという態度だと思います。物事に心理的に巻き込まれていって、感情の起伏が激しい人がいます。こういう人と対極にあるのが、無事の人です。物事に関わるのだが、落ち着いている、動揺がない人という意味での無事の人と解釈します。「平常であれ」というのも同じような意味です。

「意図して何かをするな」「外に向かって求めるな」というのは、どちらも欲望が問題視されています。禅仏教では戒律や欲望のことを、特に取り沙汰しません。実際の修行道場はさておき、テキスト内で禁欲的な面はあまり強調されません。これは禅のおおらかな面ではありますが、欠点のようにも思います。なぜなら、思考の増加、つまり自我の活発化に、欲望が大いに関係しているからです。欲望が少なくなれば、思考は減少しますし、自我は弱体化します。

臨済先生は生活における欲望は強調されませんが、法を求めるという欲望に関しては、口を酸っぱくして「求めるな」と何度もおっしゃいます。私なりに先生の意図を汲んでまとめると、「日々の規矩や作務を当たり前にこなしていけ。気負ったことをするな。気負うとかえって思念が乱れ、逆効果だぞ」ということです。

確かに、ちょっとした気負い、努力、期待、達成欲、などなどが思念を乱します。そのことを臨済先生は言っています。

文字ではなく、本物のソレを直(じか)に掴(つか)めということです。その方法のヒントは、禅のテキスト内にチラホラ見かけはします。しかし、必ずしも手取り足取りしてくれるわけではありません。あとは自分で工夫するしかないようです。

お互い頑張りましょう。

 

今回はこの辺で。また、お会いしましょう。

 

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