【臨済録】やさしい現代語訳・解説 行録4

2023/09/09
 

 

こんにちは!

今回は、臨済が松を植えます。

 

①読み下し文

師、松を栽(う)うる次で、黄檗問う、深山裏に許多(そこばく)を栽えて什麼(なに)か作(せ)ん。師云く、一には、山門の与(ため)に境致と作し、二には、後人の与に標榜(ひょうぼう)と作さん、と道(い)い了って钁頭(かくとう)を将(も)って地を打つこと三下(さんげ)す。黄檗云く、是(かく)の如くなりと雖然(いえど)も、子(なんじ)已(すで)に吾が三十棒を喫し了れり。師、又钁頭を以って地を打つこと三下、嘘嘘(きょきょ)の声を作す。黄檗云く、吾が宗、汝に至って大いに世に興(おこ)らん。

 

後に、潙山(いさん)此の話を挙(こ)して、仰山(ぎょうざん)に問う、黄檗当時(そのかみ)、祇(た)だ臨済一人(いちにん)に嘱(しょく)するか、更に人の在る有りや。仰山云く、祇だ是れ年代深遠(じんおん)なり、和尚に挙似(こじ)することを欲(ほっ)せず。潙山云く、是の如くなりと雖然も、吾れ亦た知らんと要(ほっ)す。汝但(た)だ挙し看(み)よ。仰山云く、一人南を指して、呉越(ごえつ)に令行(ぎょう)ぜん、大風に遇わば即ち止(や)まん。

 

②私訳

臨済が松を植えた際、黄檗が問うた。

「このような山奥に松を植えてどうするつもりだ」

臨済は「一に山門の境とし、二に後進のための目標といたします」と言って、鍬で地面を三度叩いた。

黄檗「それはよいが、(今の会話の間)そなたはワシの三十棒を食らっておったぞ(臨済夢を語りすぎた。これらは皆観念)」

臨済はまた鍬で三度地面を打って、ヒューと口笛を鳴らした(やられたなあ)。

黄檗「我が宗は汝のもとで大いに栄えるだろう」

 

後に潙山がこの話を持ち出して、仰山に問うた。

「黄檗はそのとき、臨済一人に禅の未来を託したのか。それとも他に誰かいたのか」

仰山「いました。ただ、ずっと先のことですから、和尚には言いたくありません(未来のことを言えば観念に落ちる)」

潙山「そうだとしても、ワシは知りたいのだ。言ってみよ」

仰山「一人は南に向かい、呉越で法を広めます。(その後)大風が起き、そこで止まるでしょう」(岩波文庫の注によると、前者は臨済下三世の南院恵顒、後者の大風は臨済下四世の風穴延沼のこと。どちらも仰山の予言。)

 

現場検証及び解説

 

訳中、カッコ内に補助用語を置きましたので、それでわかるかと思います。松を植えた臨済が、黄檗にその意味を問われ、自身の思惑をつい語ります。しかし、それは未来を語ることになり、どうしても即今を外れてしまいます。黄檗はそれを冗談っぽくとがめて、三十棒云々といいます。

実際は臨済を認めており、頼もしく思っている様子です。最後の「我が宗は汝のもとで大いに栄えるだろう」の言葉がそれを表しています。が、これも未来を語っており、臨済がやり返すチャンスではありました。

しかし、元師匠の喜びがひしひしと伝わったのでしょうか。臨済は黙ってやり過ごします。

面白いなあと思ったのは、臨済の、鍬で三度地面を叩く所作です。ハッキリとした意味は解せませんが、私には「即今を逸れたとき、その思念を払うための呪文」のように感じられました。

私も瞑想中に、ついつい仕事の段取り(思考)が始まると、それにハッキリと気づき、さらに「段取り無用、段取り無用・・・」と二、三度念じます。臨済もそのような工夫をしていたのではないかと想像します。三度というのも意味深です。何せ、黄檗和尚に三度参じ三度打たれたのですから。

曹洞宗の僧侶、藤田一照老師は対談か何かで「即今を思い出すための合図みたいなものがあればいい。たとえば、高速道路の居眠り運転を防ぐための等間隔の浅い段差(ガタン・・・・ガタン・・・というあれ)のようなもの」とおっしゃっていました。いいアイデアだと思います。

 

潙山と仰山の対話は、ややかったるいものがあります。なぜ、わざわざこのような、どうでもいい会話を付け加えたのか、理解できません。臨済録の後日談として付け加えたのでしょうが、もう少し内容のある、センスのいいものが欲しいですね。

黄檗を継ぐものは臨済の他にいなかったのか、という潙山の問いに、仰山は答えたがりません。これは、意地悪ではなく、未来を語ることは即今を逸れること、即ち法に背くことだからです。

そして、これは禅の指導者のいやらしいところですが、わざわざ法に背くように誘う、そのように仕向ける、これはよくあるパターンです。

潙山は仰山の師匠です。仰山はしぶしぶ答えます。仰山は予知能力があったようです。

 

さてさて、今回はこの辺で。近々にお会いしましょう!

 

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