【無門関】やさしい現代語訳・解説 第29則「非風非幡」

2023/09/25
 

 

こんにちは!

今回は、旗が風に吹かれている場面を想像して、お読みください。

 

①本則

六祖、因みに風刹幡(せっぱん)を颺(あ)ぐ。二僧有り、対論す。一は云く、「幡動く」。一は云く、「風動く」。往復して曾て未だ理に契わず。祖云く、「是れ風の動くにあらず、是れ幡の動くにあらず、仁者が心動くのみ」。二僧悚然(しょうぜん)たり。

私訳

寺の旗が上がっていて、二僧が言い争っていた。一人は「旗が動くのだ」と言い、一人は「風が動くのだ」と言った。お互い譲らず、決着がつかない。それを見ていた六祖は言った。「これは風が動くのではない。旗が動くのでもない。人の心が動くのだ」。二僧はその場に立ちすくんだ。

 

②評唱

無門曰く。是れ風の動くにあらず、是れ幡の動くにあらず、是れ心の動くにあらず。甚(いず)れの処にか祖師を見ん。若し者裏に向かって見得して親切ならば、方に二僧、鉄を買って金を得るを知る。祖師忍俊不禁(にんしゅんふきん)にして、一場(いちじょう)の漏逗(ろうとう)なり。

私訳

これ風が動くにあらず、これ旗が動くにあらず、これ心の動くにあらず。この問題のどこに祖師の真意を見るか。もしここのところがしっかりと分かれば、この二僧が鉄の値段で金を得たことを知るだろう。六祖慧能(えのう)は忍び笑い、一場の失敗劇。

 

③頌

風幡心動 一状領過 只知開口 不覚話堕

私訳

風、旗、心、共に動く。一同同罪。おしゃべりばかりで、話が破綻していることに気づかない。

 

現場検証及び解説

【本則】

六祖慧能とは、第23則にも登場した覚者で、学歴はないが境地が素晴らしく、五祖より後継ぎに抜擢され、仲間の嫉妬を買い、寺から逃げた方でした。

その六祖が二僧を一喝する、という図です。問題は「旗が風にはためいている」光景です。ある僧は「旗が動く」といい、ある僧は「風が動く」といいますが、六祖はどちらも否定し「心が動くのだ」と断定します。

仏教的な解釈によれば、物質は存在しません。奇妙に聞こえるかもしれませんが、それが仏教(ヒンズー教、非二元の教えも同じ)の世界観であり、真実です。

もう少し詳しく言ってみましょう。物質は単独では存在していません。つまり、あなたが認識しているときだけ、物質は存在します。あなたが目を見開いているとき、公園の樹木は存在します。あなたが目を閉じたとき、それは存在しません。他の人が見ているだろうって? それは別の存在です。

もうひとつ、例をあげましょう。たとえば、10人が一本の樹木と対峙しているとします。

これは、一本の樹木を10人が見ているという状況ではありません。10人の見た10の樹木が存在します。同時に、同じ一本の樹木を見ているという幻想を、10人が共有しているのです。

則に戻りましょう。風も旗も物質(と思われているもの)です。二僧はどちらも物質が動いているという前提のもとに、言い争っています。しかし、上記したように、単独の物質は存在しません。心が関与して初めて物質が存在します。六祖はそのことを指摘したのです。二僧が唯物論の立場で議論していたのに対して、六祖は唯識論の立場から真実を指摘したといえます。

 

【評唱】

一筋縄ではいかぬのが、この無門関です。無門先生は、またわけのわからぬことを言い出します。「心が動くのではない」と。これは六祖の見解と矛盾します。どう考えればよいのでしょうか。

私は、無門先生は心を二様に使い分けている、という解釈のもと、解説してみたいと思います。

白スクリーンと映像の例を思い出してください。ここでは、風に旗がはためいている映像です。この映像の方を指して、六祖は心が動いていると指摘しました。無門先生は白スクリーンの方を指して、「心が動くのではない」といっています。白スクリーン(仏性)は不動です。

本則では映像の方を心とし、評唱では白スクリーンを心としています。

同じ言葉を二様に使うのは止めてほしいと思いますが、無門先生は読者が混乱したり、誤解したりすることを、脇で見ながら喜ぶという悪癖がおありのようで、致し方ありません。

 

【頌】

さてさて、ここでまた、見解がブレます。今度は風、旗、心共に動くとなります。ここでの心は六祖が指摘した心の方です。白スクリーンと映像の例でいえば、白スクリーン上の映像が動く、ということ。と同時に、映像の中の風と旗が動いているね、とこういうことです。

「一同同罪・・・話が破綻」というのは、白スクリーン上の風、旗、心ではなく、白スクリーンそのもの(評唱でいう心)に注目して欲しい、というような意図を感じました。無門先生、ハッキリものを言わないからなあ・・・。

たぶん、そうだろう、という話。今回はこの辺で。

 

第30則でお会いしましょう。

次回の記事:【無門関】やさしい現代語訳・解説 第30則「即心是仏」

 

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